ニッポニカ・アーカイヴ

東京音楽大学付属図書館で2013年12月に開催されたシンポジウムについてご報告します。

シンポジウム「日本の管弦楽作品の演奏譜に於ける課題と展望」ご報告

  オーケストラ作品の演奏には、スコアやパート譜が必要です。ニッポニカの演奏会企画は楽譜さがしから始まります。楽譜に関する情報は一元的に管理されていないので、作曲家のご遺族、出版社、オーケストラ、放送局、図書館、大学等に問い合わせる事になります。演奏記録があっても譜面があるとは限らず、あっても状態が悪くそのままでは利用できない場合があります。1970年以前の日本のオーケストラ作品の楽譜に関するこのような状況は、日本人のオーケストラ作品が一部を除いて演奏される機会が限られる要因となっていると考えられます。  2013年12月7日に東京音楽大学付属図書館にて、東京音楽大学付属図書館とオーケストラ・ニッポニカ主催で、私たちがこれまでの10年間の活動を通じて感じてきた問題点を、さまざまな領域で活躍されている方々と共に考えるために、下記のようなシンポジウムを開催しました。


日時:2013年12 月7日(土)14:30〜17:00
場所:東京音楽大学付属図書館 5階
司会 林 淑 姫 明治学院大学非常勤講師
基調報告:加藤のぞみ オーケストラ・ニッポニカ楽員代表
 「演奏譜は文化だ。 〜ニッポニカ十年の活動の中で考えたこと、感じたこと〜」
パネリスト
 生島美紀子 神戸女学院大学非常勤講師
       神戸女学院所蔵資料「大澤壽人遺作コレクション」担当
 小沼純一  早稲田大学文化学術院教授
 高木雅也  (株)全音楽譜出版社楽譜事業部 出版部 課長
 沖あかね 東京フィルハーモニー交響楽団・ライブラリアン
 奥平 一 オーケストラ・ニッポニカ団員

 シンポジウムでは、加藤からニッポニカでの楽譜作成等に関する経過報告をしました。ニッポニカでは、設立から10年ほどの活動で40数回の演奏会があったが、その中で演奏した作品は100曲を超え、委嘱作品を含め24曲が初演、35曲のパート譜と、演奏に当たってスコアが見づらかったり失われていた16曲の浄書スコアを作成した。楽譜の作成にあたっては複数回のリハーサルを経て校訂を行い、実際に演奏時に使用したものを「演奏譜」とし、今後の再演時に活用できるように整備してきた。

 小沼純一さんからは、楽譜を音楽文化論からとらえてお話がありました。演奏家は、楽譜を通して時間と場所を超える。演奏するという行為はその身体が音楽を通して過去の作曲家の思考と出会うことである。作曲家の筆跡までさかのぼって、音楽を実現する面白さがある。オーケストラ作品ではいろいろな演奏家によって情報がアーカイブされていくことに意味がある。ニッポニカの演奏の歴史が蓄積されたパート譜やスコアが「演奏譜」として音楽大学の図書館に収蔵されるということは意義深い。

 生島美紀子さんからは、神戸女学院に寄贈された大澤壽人の手稿譜、プログラム、写真、書簡など作曲家の資料を所収し網羅的に管理している「大澤プロジェクト」についてご報告がありました。この「大澤プロジェクト」ではレクチャーコンサートや楽譜出版など、資料に基づく社会に向けての発信を心がけている。演奏譜についての問題として、校訂情報が重要で手稿譜を頼りに注釈を入れていること、浄書譜におけるコンピュータ譜の問題、資金と人材の問題の指摘があった。

 沖あかねさんからは、プロ・オーケストラでのライブラリーにおけるご苦労や、メトロポリタン歌劇場でのご経験や、日本人作品の演奏譜の所在確認はプロのライブラリアンでも楽譜探しが大変なことには変わりないことが話されました。情報を一元化するためのプロジェクトがあるが、様々な事情があってなかなか時間が足りない。

 高木雅也さんからは、音楽文化を担う Music Publisher (作曲家の作品を著作権、版権、貸し譜の管理を含めて管理する)のお話がありました。日本では、出版社が引き受けるとしても作曲家の作品ごとだが、海外では、作曲家の作品を出版社がまとめて受け持っていく。これは楽譜の出版、レンタルが音楽文化の一翼を担っているということを示している。

 奥平からは、演奏譜の管理や校訂について、ニッポニカのいくつかのエピソードをお話ししました。紙恭輔の木琴協奏曲の演奏の際には、リハーサルを経て「木琴」探しをすることになり、アメリカから平岡養一特注の木琴を発掘した。清水脩の交響曲3番の際に劣化したり欠落した部分を整えた演奏譜を寄贈しようとしたがオリジナルでないと当初は受け容れられなかった。

 報告に続く質疑では、海外のミュージックパブリッシャーの「プロフェッショナリティ−」(出版社が作曲者の活動を支える意志)や、IT利用によるデータの個別化やデータ管理の問題、楽譜を通じて見えてくる音楽文化のあり方に発展し、楽譜情報の共有と公開、そのための方法などについて、司会の林さんの進行で熱心な議論が行われ、今後、勉強会などを企画しようという声も上がりました。

 オーケストラ・ニッポニカでは、作成した演奏譜を東京音学大学付属図書館に寄託して、広く利用していただけるよう準備しています。まず本日演奏の「シンフォニア・タプカーラ」(1979年改訂版)を始め10数曲の演奏譜を寄託します。詳しくは、5月以降に東京音学大学付属図書館のホームページに掲載されるご案内を照会ください。

 今回、ニッポニカの譜面を東京音楽大学付属図書館へ寄託するにあたり、楽譜用の中性紙封筒作成など寄託の準備にかかる経費をニッポニカ・フレンズの積立金から拠出させていただきました。