金井喜久子かない きくこ (1906-1986)
「第13回演奏会プログラム解説より転載」
奥平 一(オーケストラ・ニッポニカ)
この曲は、沖縄の旋律とリズムが次々に繰り出されるオムニバス的作品となっている。形式は必ずしも明確ではないが、ピアノのカデンツァで終わる序奏の後、三つの楽想部分からなる音楽的形式を2回擬似的に繰り返し、終結部に一挙に雪崩れ込んで、まるで南国の空の様に何の感情も引きずらずにきっぱりと終わる。 引用される沖縄民謡のすべては解明できないが、少なくとも金井の生れた宮古島の民謡「根間の主」の旋律が、曲の冒頭チェロとヴィオラによって、そして2回目のAndante楽想の前にはファゴットとヴィオラによって演奏される。

  交響詩曲「梯梧の花咲く琉球」は、終戦後「美しき琉球民謡による歌と管弦楽と舞踏の会」と題する、おそらくNHKの催しで初演された。終戦末期の沖縄の惨状と、作曲の時期が終戦の1年後ということを考え合わせると、金井の作曲時の心境やいかに、と思わざるを得ない。金井は終戦時には山梨に疎開、そして沖縄の家族は石川県に疎開していたため、1953年に沖縄を訪ねるまで沖縄本土を実際に見ることはなかったが、終戦間際の新聞号外を読んで状況を理解、涙したことを自伝の中に述べている。(1952年のサンフランシスコ条約により、沖縄は米国の施政権の元に統治されることとなった。)
【楽器編成】Fl2、Ob2、C-Ang、Cl2、Fg2、Hr4、Tp2、Tb3、Tub、Tim、Tambour、日本太鼓、〆太鼓、G.Cassa、Piatti、Piano、弦楽5部
【初演】1946 (昭和21) 年11月21日 日比谷公会堂 指揮:服部正 演奏:青年日響
【楽譜出典】スコア(金井弘志氏提供)パート譜(ひなあられ工房提供)
作曲家