橋本國彦
橋本國彦はしもと くにひこ (1904-1949)
「第13回演奏会プログラム解説より転載」
奥平 一(オーケストラ・ニッポニカ)
この作品が作曲された1928(昭和3)年に橋本は24歳であった。この年に橋本は歌曲の分野で日本音楽史に残る傑作の数々を作曲している。「黴」「斑猫」「笛吹き女」「お菓子と娘」などである。
  そして、この佳品が作曲された前年までに作曲された日本の管弦楽作品は28曲。内訳は、山田耕筰11曲、大沼哲4曲、箕作秋吉3曲、菅原明朗・諸井三郎各2曲、呉泰次郎・高木東六・山本直忠・橋本國彦各1曲。(「フィルハーモニー53巻9号現代日本の管弦楽作品表〈1912?1980〉」による)山田耕筰は、彼の主要管弦楽作品の大半を作曲し終えていたが、他の作曲家の作品は大沼を除いて殆ど初期作品であり、現在では採り上げられる機会はまったくない。
  作品の構成は、コーダの付いた典型的な三部形式である。オーケストレーションは手堅く、巧みな転調と歌謡的な旋律で聴くものを楽しませてくれる。第一部は、チェロとコントラバスのピッチカート(弦を指で弾く奏法)により主題が提示される。主題には後に展開される音型とリズム型が巧妙に組込まれていて周到である。橋本らしい歌謡的な旋律とスケルツォ的ピッチカート経過句を交互に繰り返して第一部を終わる。中間のトリオ部分では真ん中あたりにスケルツォ的要素がわずかに回想されるが全編は歌に満ちている。特に後半現れるヴァイオリンのソロ旋律は美しく、大阪でヴァイオリンの名教師・辻吉之助(ヴァイオリニスト辻久子の父)に師事した橋本の面目躍如である。トリオ部分の余韻をクラリネットに残しながら曲の冒頭の主題が戻って第三部が始まる。ほぼ第一部と同様な構成を辿りながらも新しい展開を見せてクライマックスを築く。静まった後、コーダに入る。弦楽器の伴奏に乗ってフルートが曲の冒頭の主題を奏して後、他の動機もわずかに聴こえて静かに終わる。
  初演のデータは不明である。
【楽器編成】Fl3(III Pic)、Ob2(II C-Ang)、Cl2、Fg2、Hr4、Tp2、Tb3、Tub、Tim、Triangle、Piatti、Cassa、Tam-tam、Glockenspiel、Harp、弦楽5部
【初演】詳細不明
【楽譜出典】スコア(日本近代音楽館 提供) パート譜(オーケストラ・ニッポニカ作成)
作曲家