鈴木秀美が振る 20世紀の三章

 近年、指揮者・鈴木秀美の活躍には目覚ましいものがある。2017年度は、読売日本交響楽団をはじめとする在京オーケストラや、名古屋フィルハーモニー交響楽団などの定期演奏会に招聘されているほか、山形交響楽団ではラデク・バボラークと共に首席客演指揮者としての活動が決定している。バロック期作品からロマン派作品までをレパートリーとし、ことにハイドンをはじめとする初期古典音楽の担い手として、現在の日本において"空前絶後"の存在であることは衆目の一致するところであろう。手兵であるオーケストラ・リベラ・クラシカを率いての演奏レベルは、世界的な水準にある。その鈴木秀美が20世紀の音楽を指揮して、作品に新鮮な風を吹きこむことができる手腕を持っていることは、あまり知られていない。
 2012年4月、オーケストラ・ニッポニカを指揮した芥川也寸志の交響曲第1番(1954/1955)の指揮は、作曲家をよく知る人々からも絶賛された。さらに、2014年11月には作曲家安部幸明(1911〜2006)の1920年代から1960年代の作品を手がけて、これも安部の弟子筋などから好評を得た。今回、満を持して、鈴木秀美が日本の20世紀を代表する作品を指揮する。ヨーロッパの古典音楽に造詣の深い鈴木が、日本の現代音楽へどのようにアプローチをするのかに期待が募る。
三善晃の「交響三章」は、日本の現代音楽の古典的作品として定着している。芥川也寸志の「交響三章」の人気も高い。ただ、誕生してから60年以上を経たふたつの作品のイメージは固定化していて、演奏が予定調和的になりがちであることも事実である。作曲家自身が語ったこと、作曲家自身が指揮をした印象、そして同時代の解説と評論が、いまだ作品への新しいアプローチを阻んでいるとも言える。新ウィーン楽派の作品はカラヤンによって、ストラヴィンスキーの作品はブーレーズによって、スメタナの作品はアーノンクールによって、それぞれに新たな輝きと陰翳を獲得した。三善と芥川の対照的な「交響三章」の上に積もった埃は、21世紀の演奏家たちによって、振り払われても良いころである。
 そして、深井史郎の「架空のバレエのための三楽章」と、アッシジの聖フランチェスコを主題とするヒンデミットのバレエ音楽から編まれた三楽章の組曲「気高い幻想」を、同じ舞台に上げる。「架空のバレエのための三楽章」は、1956年にヒンデミットがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者として初めて来日して日本の評論家たちに酷評された年の暮れに初演された。初演後60年間見捨てられていたが、2004年、オーケストラ・ニッポニカによって蘇演された。三楽章の形式は、20世紀の東西の作曲家たちにとって重要な形式であった。
 鈴木秀美が振る、オーケストラ・ニッポニカならではの名曲撰に、ご期待いただきたい。