〜芥川也寸志の夢〜 九州・沖縄の作曲家たちによる交響作品展

 『芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカ』は、作曲家であり幅広い社会活動家であった芥川也寸志が1976年に始めた日本の作曲界の先達の管弦楽作品を発掘し演奏する『運動』を引き継ぐ意思をもって、14年前に創設されました。失われ、あるいは傷んだオーケストラ演奏用譜の復刻・校訂を行ない、日本の作曲史上における作品の再発見、再評価の機会を提供するとともに、録音を残し、またこうした再演を容易にする為に譜面、プログラム資料などが東京音楽大学付属図書館の協力を得てアーカイヴされています。更にこうした活動と並行して、同時代に生きる作曲家への作品委嘱を、演奏家が果たすべき重要な責務であるとの観点から、アジア各国と音楽交流の機会があるごとに行ってきました。

 かつて芥川也寸志は、音楽活動が大都市だけに集中するようではいけない、"地方"の音楽活動を活性化しなければならないとの理念を持っていました。1980年代前半には、創成期の宮城フィルハーモニー管弦楽団(現・仙台フィルハーモニー管弦楽団)の音楽総監督として東北地方の作曲家を支援し、同様な活動を山形交響楽団でも実践したのです。加えて1984年に"東京"で「東北の作曲家たち 日本の交響作品展8」と題する演奏会を企画、新交響楽団を指揮しました。そして今から3年前には、当時の芥川が九州・沖縄の作曲家協会へ宛て同様な活動を九州地区でも展開しようと夢を綴った手紙が、現地で大切に保管されていると判明しました。

 現在でも、日本国内の各地を地場として活動する作曲家たちの作品が、様々な音楽活動の中心地"東京"で演奏される機会は決して多くありません。ところが"地方"、例えば今回紹介する九州・沖縄地区では、作曲家たちが圏内での作品発表や東アジアとの音楽交流などを活発に行い、継続しています。即ち九州・沖縄地区では芥川の理念は実現されていると言えるのです。

 オーケストラ・ニッポニカが演奏活動を継続して第30回目になるこの機会に、30年前の芥川也寸志の夢を"東京"で実現すべく、九州・沖縄地区で今日活躍する作曲家たちに作品委嘱しました。新作を提供する作曲家たちは、石田匡志(鹿児島大学准教授)、久保禎(鹿児島国際大学教授)、中村透(琉球大学名誉教授)です。作品は既に完成しており、それぞれの作風は非常にヴァラエティに富んでいます。ある"地方"にフォーカスしたこの試みが、実は現代音楽の多様性の一端を示す演奏会となることにご期待ください。