「芥川也寸志 その時代と信念」
オーケストラ・ニッポニカ 奥平 一
  芥川也寸志管弦楽作品連続演奏会の第三回目です。
 演奏される“音楽と舞踊による《月》”、そして「ヒロシマのオルフェ」はNHKの放送企画として制作された作品です。今回はいずれも管弦楽作品として演奏会形式で演奏します。
 
 みなさんは、いまの地上波のテレビの多くの番組をご覧になってどのように思っていらっしゃるでしょうか。個人的な感想としては、何も生産的なことはなく消費消耗するばかり、そして触発されることも少なく、実に愚劣とも言うべき番組が電波を占領しています。

 「ヒロシマのオルフェ」は、1960年に原題「暗い鏡」として発表されました。後にノーベル賞作家となった大江健三郎と気鋭の作曲家であった芥川也寸志をコーディネートしたのはNHKのプロデューサー三善清達でした。1956年の経済白書の中で《もはや戦後ではない》と戦後復興が宣言されて、1960年には日米安全保障条約が改定されて民衆の声は大きな力となって政治を動かしました。経済が時代を牽引しますが、時代はいまだ復興せず、核戦争の危機を招いたキューバ危機は1962年のことです。翌年大江は現地をはじめて訪れて「ヒロシマノート」(1965)を著し、オペラ台本で着想を得たテーマを深く見つめました。
 また「月」は、かぐや姫の物語ですが、環境問題に結びつけたメッセージ性の強い企画で、NHKの優れたプロデューサーであった渡壁氏が制作した放送番組でした。

 オバマ大統領のプラハ宣言後、急速に核問題への関心がたかまっていますが、かつて数十年に、放送の機構が社会へ重要なメッセージを込めて、優れた芸術作品を生み出す知性と実力があったことは記憶をしておいて良いことでしょう。
 音楽が音楽だけで終わらない広がりとつながりを持つこと。これこそは、作曲家・芥川也寸志が生涯をかけて貫いた信念であったと思います。