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「私たちは、芥川也寸志に冷たすぎはしなかったか?」
オーケストラ・ニッポニカ 奥平 一
   今年、作曲家・芥川也寸志が逝ってから20年が経つ。彼が残した業績は具体的、かつ広範であり膨大である。音楽文化振興の礎の整備(芸術文化振興財団)、音楽を聴く良好なホールの建設(新国立劇場、サントリーホールなど建設への貢献)、オーケストラの育成(新交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など)、音楽著作権の確立(日本音楽著作権協会)、音楽による国際交流、平和を求める音楽活動(「反核・日本の音楽家たち」)、音楽教育への提言など、際限がない。しかし何よりも忘れてならないのは、作曲家としての業績である。
   没後20年を記して今年各地で芥川の作品が演奏されるが、それらはいずれもすでに定番となった著名な作品ばかりである。「交響三章(1948)」「交響管弦楽のための音楽(1950)」「弦楽のための三楽章(1953)」「エローラ交響曲(1958)」「チェロとオーケストラのための“コンチェルト・オスティナート”(1969)」あたりなのである。
   確かに定番も大切。しかし今年こそ、名のみ知られていながら、私たちが未だに聴いたことのない芥川作品を演奏して、彼の作曲活動をあらためて回顧する絶好の機会であるはずだが、そのような企画は見当たらない。
 じつはこうなるのも必然といえる。なぜならば、楽譜がないのである。日本の作曲家として極めて著名な芥川の管弦楽作品でさえ、楽譜が整備されていて日常的に演奏可能な作品はけっして数多くはないというのが現実なのだ。
 そこで改めて、本名徹次音楽監督のもとオーケストラ・ニッポニカは、芥川也寸志の映画音楽、合唱曲、管弦楽曲、協奏曲、バレエ音楽、オペラの各分野から管弦楽作品を選び、3回の演奏会シリーズを企画した。シリーズ第2回にあたるこのたびの第16回演奏会を開催するにあたっては、楽譜の一部または全部が失われた作品ばかりをとりあげる。楽譜が一切現存しない映画音楽「八つ墓村」は、サウンドトラックから慎重に演奏用の譜面を復元した。「GX−コンチェルト」は、オーケストラ総譜(スコア)のみが現存するためこれを基に楽器パート別演奏譜を作成した。所在不明となっていた「子供のための交響曲・双子の星」の楽譜は捜索の果てについに発見に至り、演奏を実現できることになった。
   演奏曲目の半数が舞台初演の作品である。例えば、1957年作曲の「双子の星」は、全15楽章からなる充実した内容であり作曲者の代表作ともいえる作品。なぜ今まで演奏されてこなかったのかが不思議である。
   作品は、演奏されなければ“音楽”にはならない。演奏され、聴き継がれて初めて、“音楽”作品として生き残ることができる。シンプルな論理である。
   あなたに、ぜひこのコンサートを聴いていただきたい。